毛はなぜ抜ける? 仕組みを知り抜け毛の恐怖を迎え撃て!(前編)


「横浜労災病院」皮膚科部長・齊藤典充医師

抜け毛が増えて前頭部や頭頂部から薄くなってくる男性型脱毛症(AGA)。国内ではおよそ1300万人、総人口の約1割に男性型脱毛症が見られるといわれている。巷にはさまざまな育毛法や増毛法があふれているが、眉に唾をつけたくなるような方法がなきにしもあらず。いきなり試して貴重な毛髪を減らす結果になっては逆効果だ。そこで、育毛法や増毛法に飛びつく前にまず発毛・育毛の仕組みと男性型脱毛症の原因を知っておくのが肝心だ。

今回は毛髪治療が専門である「横浜労災病院」皮膚科部長の齊藤典充医師に話を聞いてみた。

◆年齢とともに生え・抜けのサイクルがくずれる!

「人の毛髪は約10万本。一定のサイクルで発毛・成長・脱毛を繰り返しながら生え変わっています。これを『毛周期(ヘアサイクル)』といい、平均すると5~6年で1サイクル。人間の一生で毛周期は15回くらいということになります。意外に少ないと思われるかもしれませんね」(齊藤医師、以下「」内同)

06a9c943eb2bcd68ec1ba3a051fb6aaf_s人間は一生のうち十数回しか髪が生え変わらない?

 

人の毛周期は、毛が生えはじめて育って長く伸びる「成長期」が2~6年、毛が伸びにくくなって抜ける準備に入る「退行期(移行期)』が2~3週間、毛根が活動を中止して毛が伸びなくなる「休止期」が3~6か月。そして役目を終えた毛は抜けていくわけだ。頭髪全体で見ると80~90%が成長期、約10%が休止期、そして数%が退行期にあるといわれている。つまり、すべての頭髪がいっぺんに休止期を迎えることはないのだ。

しかし、何らかの原因でサイクルのバランスがくずれると、頭髪のボリュームが減って薄毛が目立ってくることになる。

「髪は若い人でも毎日50~100本ぐらい抜けています。それを超える多くの本数が抜けるようになると、頭髪が減って薄毛になるわけです。年を取ると成長期に十分な髪を育てることができずに退行期に入ったり、休止期が短くなってすぐに抜けてしまったりということが起こってきます。健康な毛周期でなくなってしまうということですね。薄毛の原因として考えられる主なものには、加齢や男性ホルモンの影響があります。男性型脱毛症は男性のみならず女性にも起こります。健康な女性も20~40代をピークに髪の成長速度が遅くなると考えられています。

近頃はテレビなどでも取り上げられることが多くなっていますので、抜け毛と男性ホルモンについて聞いたことがある方も多いでしょう。しかし、男性ホルモンに直接頭髪を減らす作用はありません。誤解を招くといけないので、まず、髪の生える仕組みからご説明しましょう」

毛髪は頭皮の外に出ている「毛幹」(いわゆる髪の毛)と、頭皮の中に潜っている「毛根部」に分けられる。その毛根部をいくつかの組織が取り囲んでいる。頭皮や毛を保護する皮脂を分泌する「皮脂腺」、毛を直立させる「立毛筋」という小さな筋肉、細胞分裂を起こして毛を作り成長させる「毛母細胞」などがそれだ。

外からは見えないが髪の毛はこうした縁の下の力持ちによって支えられている。しかも、毛根部の周囲にある組織は心臓や腎臓、肝臓と同じように一つずつ完結した機能を持つ。それゆえに毛髪は「生体内で一番小さい器官」ともいわれているそうだ。

01サイクルzen健全なヘアサイクルの例。ヒトの一生と同じく生まれ、成長し、徐々に退行して役目を終える。バランスが崩れると毛根が衰えやすくなる

 

「抜け毛をよく見てみてください。根元が白く膨らんでいるはずです。この膨らんだ部分は『毛球』といい、先端にある『毛乳頭』が毛細血管から栄養を取り込んで、周辺の『毛母細胞』に送ります。そして『毛母細胞』が分裂して毛髪が生み出されるのです」

「毛乳頭」は栄養の受け入れ口であるとともに、テストステロンという男性ホルモンの受容体(受け皿となるような器官)を備えている。「毛乳頭」の受容体にテストステロンが結合すると、酵素の働きでジヒドロテストステロンという物質に変換される。このジヒドロテストステロンこそが毛髪の細胞分裂を抑制するなどして、毛髪の発育を阻害してしまう元凶なのだ。

◆「犯人」は男性ホルモンではなく受容体の感度

「ジヒドロテストステロンの作用によって起こることは、成長期の毛髪が太くしっかり育たないうちに休止期に入ってしまうこと。それで、頭髪が薄くなるわけです。女性も閉経すると女性ホルモンの分泌が減り、そのぶん男性ホルモンの割合が多くなるので、男性型脱毛症が起こりやすくなるんです」

俗に「男性ホルモンの分泌が旺盛な人ほど薄毛になりやすい」といわれるが、斎藤先生はきっぱりと否定。男性ホルモンの量ではなく「毛乳頭」にある受容体の感度が高いか低いかが問題なのだという。この感受性は遺伝によって受け継がれるため、家系に薄毛の人が多い人は薄毛になる可能性が高くなる。

薄毛の原因はまだまだある。ストレスや血中脂質の過多によって血管が収縮したり、過激なダイエットによって栄養不足に陥ったりすると、「毛根部」とその周辺組織に酸素や栄養が行き渡らず活動が停滞してしまう。また、洗髪をしっかりしないと毛穴に皮脂が詰まって皮膚が炎症を起こすことも多い。

「最近発表された毛乳頭に関する研究によると、面白いことがわかってきました。毛乳頭は、成長期には皮膚の深い位置にある皮下脂肪組織まで埋まって安定していますが、『休止期』には皮膚の浅いところまで上がってくる組織です。このとき何らかの信号によって『目を覚ませ!』という情報が伝わると、毛乳頭が皮膚に深く潜っていき、新しい毛が生まれて古い毛が押し出され、再び成長期に入っていくことは知られてきました。

毛乳頭に情報を送る司令塔がいったいどこにあるのか? 以前からその謎について論議されていました。今は立毛筋近くにある『バルジ領域(発毛因子を作り出す『毛包幹細胞』)』がカギを握っているというのが有力な説ですが、毛乳頭にも重要な役割があるとされています。そのため毛周期や毛の成長は、毛包幹細胞と毛乳頭との連携で決まるのではないかと、最新の研究では考えられているのです」

02バルジ2 zen未来の抜け毛治療のカギを握るバルジ領域

 

ならば、毛包幹細胞に喝を入れれば男性型脱毛を阻止できるのではないか? しかし、現時点で具体的な方法は見つかっていない。そこで、今すぐできる男性型脱毛への対処法や、昔からの通説、民間療法の是非も次回は齊藤先生にうかがっていく。

斎藤典充(さいとう・のりみつ)/独立行政法人労働者健康福祉機構 横浜労災病院皮膚科部長
皮膚科専門医。日本皮膚科学、日本研究皮膚科学会、日本小児皮膚科学会、日本美容皮膚科学会、日本皮膚外科学会日本アレルギー学会所属。北里大学医学部卒業後、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校留学、北里大学病院皮膚科講師、国立病院機構横浜医療センター皮膚科部長、北里大学病院皮膚科講師などを歴任。2014年4月から現職。

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