「ハゲタカ」はなぜハゲた? ハゲ動物のナゾを追う


あなたは見ず知らずの人にいきなり「ハゲ」と呼ばれたらどう思うだろうか? 私なら憤慨する。仮にムカつくヤツがハゲていても、面と向かって「ハゲ!」とは言わない。本能を理性で抑える。それが人間というものだ。ところが人間は動物たちに対しては平気で「ハゲ」を冠した名前を付けているのである。

調べていくと名前に「ハゲ」を付けられた動物は結構いる。百田尚樹氏のベストセラー『海賊とよばれた男』ならぬ、『ハゲと呼ばれた動物』だ。人間の一員として申し訳ない気持ちで彼等のことを調べていくうちに、いくつか疑問が湧いてきた。「彼等はなぜハゲているのか?」「なぜ『ハゲ』と呼ばれるに至ったのか?」。ではハゲ呼ばわりされた動物たちを紹介しつつ、ナゾに迫ってみよう。

◆「ハゲ動物の代名詞」ハゲタカ

名前に「ハゲ」が付く動物といえば「ハゲタカ(禿鷹)」が真っ先に思い浮かぶだろう。ハゲ動物の代名詞といってもいい。「ハゲタカ」という言葉は慣用句にもなり、死体に群がって腐肉を食べることから「私利私欲のために弱者を食い物にする悪者」という意味で使われている。最近では、「経営破たんに陥った企業に投資し、短期間に効率よく利益を回収する投資ファンド」を「ハゲタカファンド」と呼び、新聞や雑誌にも「ハゲタカ」の文字が並ぶ。

「ハゲタカ」は文学界にも進出。真山仁の小説『ハゲタカ』は、テレビドラマや映画にもなっている。逢坂剛の小説では『禿鷹シリーズ』というのもある。まさにハゲ動物界のトップスターといえるが、いずれにしろイメージはあまり良くない。

ところで鳥類の「ハゲタカ」について調べてみたところ、意外なことがわかった。実は「ハゲワシ類・コンドル類の俗称」(『広辞苑第4版』)であり、学術上、ハゲタカという名前の動物は存在しない。我々がイメージする「ハゲタカ」は「ハゲワシ(禿鷲)」に当たるのだ。

ハゲワシについて、動物の歴史・生態に詳しい「しまざき動物病院」院長・島崎嘉之氏に話を聞いた。

「ハゲワシは、分類としては鳥類タカ目タカ科のうち、腐肉を主なエサとする一群の総称です。頭がハゲたように見える腐肉食の猛禽のうち、アフリカ大陸やユーラシア大陸にいるのがハゲワシ類。南北アメリカ大陸に生息する、ハゲワシ類に似た鳥はコンドル類と呼ばれます。死んだ動物を食べて生きていますが、もし彼等がいなかったら動物の死体だらけになり、伝染病が蔓延するとも言われています。動物界の環境衛生を維持する掃除屋といってもいいでしょう」(島崎氏)

島崎氏によると、ハゲワシ類は腐肉を食べるにあたって、二つの進化を遂げているという。

「一つ目の進化は消化器です。通常、腐った肉には多くの病原菌や毒素が含まれています。しかし彼等は特別な消化器系を持っており、飲み込んだ有害な細菌の大半を殺すことができるんです。さらに、致死性細菌の一部に対しては耐性を持っています。二つ目の進化は『ハゲ』なんです。彼等は死んだ動物の体内に頭を突っ込んで肉を食べるので、首から先が血まみれになる。もし頭部に羽が生えていたら、血液がこびりついて固まってしまうだけでなく、不衛生になってしまいます。それを避けるためのハゲなのです」(島崎氏)

人間界では頭髪が貧弱であることはネガティブに捉えられがちだが、ハゲワシは進化の過程でハゲていった。むしろ誇らしいものなのだ。我々人類の場合も「シャンプーを使う量もドライヤーで乾かす時間も少なくてすむ。ハゲはむしろ進化した人間なのだ」と思ってはどうだろうか。

ハゲワシに関する「ハゲ」の理由についてはわかった。気になるのは、なぜ「ハゲ」というダイレクトな名前を付けられたのかだ。島崎氏は「それは名前を付けた学者に聞くしかありませんが、単純に見た目で付けたんだと思いますよ」とのことだった。

だが、私には疑問が湧いた。日々、動物を研究する学者さんたちが、単なるルックスから名前を付けるだろうかと。生態上「ハゲ」が必要不可欠という意味で名付けたのではないだろうか? 「パッと見、ハゲてるワシ」ではなく、「腐肉食をする上で、必要だからハゲているワシ」という分類をするための名付け方だ。

ナゾをさらに解明するため、海外での呼び名も調べてみた。

ハゲワシは英語では「Old World Vulture」、又は、単純に「Vulture」と呼ぶ(『プログレッシブ英和中辞典第4版』)。「コンドル」のこともそう呼ぶことがある。日本と同じように「弱い者を食い物にする強欲な人間」という意味でも使われるという。

英語でハゲを指す「Bald」という言葉は入っていない。私はてっきり、「Bald bird(ハゲ鳥)」、又は「Bald hawk(ハゲタカ)」「Bald eagle(ハゲワシ)」のような呼び名を想像していた。

海外で「ハゲ」と呼んでいないことは衝撃だった。彼等を「ハゲ」呼ばわりしているのは日本人だけなのだ。海外で「ハゲ」が付かないということは、「生態上で必要不可欠な要素としてのハゲ」ではなく、島崎氏の言う通り、和名は「見た目で名付けた」説が濃厚になってきた。

【ハゲワシの一種】

◆「ハゲてないぞ!」ズキンハゲワシ

先程、紹介したハゲワシ類は「ヒゲワシ亜科」と「ハゲワシ亜科」の2亜科に分かれ、9属16種が属している。「エジプトハゲワシ」「インドハゲワシ」など生息域から名付けられたものから、「ズキン(頭巾)ハゲワシ」「シロエリ(白襟)ハゲワシ」といった、おめかしをしたものまでいる。

ズキンハゲワシはその名の通り、頭巾を被ったかのような毛が生えているのが特徴。毛が生えているので、「ハゲ」と呼ぶ必要はないと思うのは私だけだろうか。「ズキン」と付けることで、「いや、あれは毛じゃない! ハゲ隠しの頭巾なのだ!」と、和名を付けた学者さんはハゲへのコンプレックスから主張した…かどうかは分からないが。

【ズキンハゲワシ】【ズキンハゲワシ】

ヒゲワシ亜科のヒゲワシは、ハゲワシ類16種の中で、唯一「ハゲ」の名が付いていない。英語名の「Bearded Vulture」には、ハゲワシの証である「Vulture」が入っていて、生態は一般的なハゲワシと同じく腐肉食なのにだ。実際、ヒゲワシを見てみると、「ハゲ」とは真逆でかなりフサフサ。これにはさすがに和名を付けた学者さんもハゲワシとは言えず白旗を上げたのかもしれない。

【ヒゲワシ】【ヒゲワシ】

◆「ハゲちらかし系」アフリカハゲコウ

次は同じワシの一種から。「アフリカハゲコウ」は、アフリカに生息するワシで、コウノトリ科に属する。漢字では「阿弗利加禿鸛」と書き、ちょっと暴走族風味。頭はやはりハゲているのだが、どちらかというと「ツルツル」ではなく、「ハゲちらかした」感じ。腐肉食で、頭の毛が貧弱になった理由はハゲワシと一緒だ。

動物の死体を食べる際、ハゲワシと競合することが多いが、鉤状(こうじょう・カギのように曲がった形)の嘴(くちばし)を持つハゲワシの方が屍肉を引き裂くには有利。そのためアフリカハゲコウは、いったん屍骸から離れてハゲワシが肉を取りこぼしたところをさらったり、横から直接奪い取ったり、あるいは食事を終えるまで待ったりする。ハゲタカ(ハゲワシ)以上に「ハゲタカなヤツ」といえる。

【アフリカハゲコウ】【アフリカハゲコウ】

英語名は「Marabou Stork」で、「Marabou」はアラビア語の「murābiṭ」を起源とし、「ムスリムの聖者や隠者とその墓、そしてそこに集まる神聖な鳥」を意味していた。「Stork」はコウノトリを指す。ハゲとは縁遠い、どこかありがい名前の鳥なのだ。英語名の由来をまったく無視しているとなると、やはり「和名は見た目だけで付けた説」は、かなり濃厚といえるだろう。

◆「喉にもハゲ?」ハゲノドシャコ

「もはや言いがかりでは?」という名前の鳥もいる。「ハゲノドシャコ」がそうだ。彼等の姿を見てほしい。頭がまったくハゲていないのだ。

【ハゲノドシャコ】【ハゲノドシャコ】

ハゲノドシャコはキジ目キジ科に属する鳥で、主にアフリカ大陸東部のサバンナに生息する。名前は、喉に毛がないので「ハゲノドシャコ」と呼ばれているそうだが、英名は「yellow-necked spurfowl」や「yellow-necked francolin」。海外では「黄色い首のシャコ」と呼んでいるのに「ハゲ」呼ばわりするなんて…。だいたいハゲているのは首だし…。日本は、どんだけハゲ呼ばわりするのが好きなのか。

◆「キュートなハゲ」ハゲチメドリ

「ハゲ」の名が付く鳥の中にも、かわいらしいものもいる。西アフリカに生息する「ハゲチメドリ」だ。毛はないが、鮮やかな黄色の頭が目を引く、マスコット的な特徴を持った鳥だ。かわいらしい見た目が人気を呼び、動物園や個人のコレクション対象となったため乱獲され、現在では野生のハゲチメドリは10000羽もいないと考えられている。

【ハゲチメドリ】【ハゲチメドリ】

「ハゲチメドリ属」の英名は「Rockfowls」、又は「Bald Crows」で、「Bald Crows」は直訳すると「ハゲガラス」となる。ついに英名と和名が共通する動物が存在した! 獰猛な鳥には寛容だった海外の学者さんなのに、なぜかわいい鳥にはハッキリと「ハゲ」と付けたのか。人気者に嫉妬でもしたのか?

◆「親近感のわくハゲ」ハゲウアカリ

最後は我々人間に近い生物、サルの一種から、霊長目オマキザル科の「ハゲウアカリ」を紹介しよう。主な生息域はアマゾン川上流の森で、赤い顔にハゲ頭と赤褐色の体毛を持つ。英名は「Bald Uakari」と、しっかり「ハゲ(Bald)」が入っていて、日本も世界も認めるハゲ動物。…というかモロ直訳だ。

【ハゲウアカリ】【ハゲウアカリ】

毛のない顔は、人間の赤ん坊にも、お酒を飲んで酔っ払ったおじいちゃんにも見える。自身の頭髪の多寡に関係なく、彼等を見て親近感を持つ人は多いだろう。人間と同じように顔の表情によるコミュニケーションが得意で、他のサルよりも喜怒哀楽を表現できるという。意外と知性が高い点も特徴だ。多くのサルは他種を敵とみなし威嚇の対象とするが、ハゲウアカリは他のサルとも共同戦線を張って食糧を確保したり、ジャガーなどの天敵から身を守ったりする。木から木へ5~6メートル跳べるジャンプ力も持つ。

さて、このサルはなぜハゲたのか。前出の島崎氏によると、「顔の表情をわかりやすく伝えるためという説や、ジャングルの中で赤い顔を際立たせて威嚇するためという説などありますが、はっきりしたことはわかっていません」。

残念なことに、現在は絶滅危惧種に指定されている。現地では「元は人間だった」という言い伝えが残るハゲウアカリだけに、「何とか残ってほしい」と、自分の毛根同様に心配するのは私だけではないだろう。

◆草花にもハゲ?

ヒユ科ヒユ属の一年草に「ハゲイトウ」という植物があるが、これは「葉鶏頭」という「鶏頭」の一種。「ハ・ゲイ・トウ」である。決して友人の伊藤さんを指し、「ハゲ伊藤」なんて呼ばないように!

【ハゲイトウ】【ハゲイトウ】

いくつかの「ハゲと呼ばれる動物」を紹介してきたが、いかがだっただろうか。共通して言えるのは、彼等のハゲは生きるための知恵であり進化の果てなのだ。「必要な物のために不必要な物を捨てる」という、生物的断捨離ともいえる。簡単に「ハゲ」と呼ぶのはたやすい。だが、ハゲをなめてもらっては困るのだ。

イラスト/今井ユリカ

 

 

おすすめの育毛剤

  • plantel01
    研究員のコメント
    M字ハゲに悩む男性に支持されているのが、このプランテルです。女性ホルモン作用のあるヒオウギエキスを配合し、M字型薄毛進行の原因となる男性ホルモン「テストステロン...

関連キーワード